友人が好む鹿児島の「そば時間」
「一食一食を大切にその地のものを楽しみたい!失敗は避けたい…」。そう思うのが旅先での食事の本音である。
黒豚、黒牛、ブリ、カンパチなど、食材に恵まれた鹿児島には、美味しい料理がたくさんある。「ボリューム満点」「贅を尽くした料理」「リーズナブル」。胸を張っておすすめできるところがいくつも思い浮かぶ。
その一方で何気に思った。
動き回り、疲れた道中「軽めに」とか「やさしい食事がしたい」といった旅人に、鹿児島らしい食事、何を勧められるだろうかーー。
いつものお約束
ふと思い出したのは福岡に嫁いだ友人の帰省した際の「お願い」だ。「ランチはそば茶屋がいい」。
天文館でも、鹿児島中央駅でも、ドライブ先でも、いつもランチ時間には「そば茶屋」を目指す。あまりにも当たり前のパターンで、気づかなかった。日常の食事であるそば茶屋は、彼女にとっては特別な、ふるさとのやさしい食事であることを。
「昨日まで結構ご馳走でさ」「ランチタイムすぎちゃったね…」「ゆっくりしたいなぁ」。
いろんな気持ちと都合を受け止めてもらいつつ、お腹を満たすために向かう「そば茶屋」。味も、メニューも店の構えもおばちゃんも「なんか鹿児島」だと友人は言っていたのだ。
地元で愛されるお食事どころ。
実は、そば処である鹿児島。そして、鰹節の産地であり出汁の文化が根付く地。
その地元の人たちが慣れ親しむ味こそ「そば茶屋」にある。
食事時間になると行列に並ぶこともしばしばだが、回転の速さからさほど気にならない。
店内に入ると、軽快な祭ばやしと大きな声が迎えてくれる。活気があり、老若男女がこれだけいる店も珍しいだろう。
席に着くとメニューを眺めながら、テーブルに用意された「漬物」に手を伸ばす。器いっぱいに入ったシャキシャキ大根の漬物は、注意しておかないと止まらなくなる。
「卵焼きどうする?」お決まりの確認。お醤油を数滴かけた大根おろしをのせてパクリ。だしが、ジュワーッと口に広がる。そんな様子を想像しながら「ひと皿を半分こね」とシェア決定。
数十種類のメニューの中から今日の気分を選ぶ。旬のメニューやカレーにもそそられるが、結局私は、かけそばか板そばに落ち着く。そば茶屋の「田舎そば」はそばの豊かな香りが特長。鰹節の効いた黄金色のだしも、鹿児島特有の甘めのそばつゆも、このそばのおいしさを一番楽しめる気がするからだ。
友人が頼むのは、天ぷらのついた板そば。一緒に行くほとんどの人がコレを注文する。客からお墨付きをもらっているメニューなのだろう。
お互いの近況を報告しつつ、慣れ親しんだ味と空間でゆるい食事。久しぶりの時間にほっこりする。カフェとは違う「そば時間」。そう改めて思った。
「『軽め』や『やさしい』鹿児島ならではの食事はどこで?」。そう旅人に尋ねられたら、「お腹も心もふんわりと満たされる優しいお食事どころ」と紹介しようと思う。
厚さが3センチほどある大きめ卵焼き、だしが効いたその味が人気。
料理を待つ間にテーブルに出される。「大根の一夜漬け」。皮をむいて、塩と七味をすりこんで漬け込むだけという手作りのもの。
「何千何万食作ろうと、お客様が出会うのは一席一食。そんなことを大切にしています」と郷原部長。
売店では、お持ち帰り用のそばや卵焼き、民芸品や郷土菓子が販売されている。覗くだけでも楽しい。
名物の板そば(650円)
古民家を思わせる造りで、店内に入ると、さらに雰囲気がいい。
大きな水車でおなじみの外観。
そばの美味しさは「挽き立て、打ち立て、ゆで立て」へのこだわりが生み出す。毎朝石臼で挽いたそば粉をその日使う分だけ打つ。そして、注文が入ってからゆでる。「おいしさに妥協なし」創業からの思いが受け継がれている。
県内に15店舗展開する「そば茶屋吹上庵」。
吹上庵本店(鹿児島市与次郎1丁目12番地)10:30〜21:30/無休(年末年始除く)市街地には天文館と鹿児島中央駅隣接のアミュプラザ地下にもある。
(一番上の写真:かけそば320円)
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