時代が変わっても
まあるい気持ちに
してくれる。
発想の原点
かすたどんの人気がまさに
蒸気のような動力となり、
大きくなってきた薩摩蒸氣屋というお菓子屋さん。
それをひっぱってきた山口さんは、
いまも菓子づくりの現場で汗を流す。
「日々、遊んでるんですよ。
苦虫をかみつぶしたような顔で甘いお菓子をつくってもねえ。ははは」と
屈託なく笑う山口さんは、
毎日のように田畑を眺め、
草を踏み、
土に触れ、
野山の花を愛でる。
そして、その日、肌で感じた思いをメモにとり、
お菓子や仕事の発想を得るのだという。
「朝霧や夕暮れに見とれたり、
旅に出たり、おいしいものを食べに行ったり。
それが大事なんです。
目に見えない思いや感覚を、
いかにものづくりに生かすかが菓子職人の仕事だから」。
なにげない自然の中におもしろさを見つける能力。
かすたどんの、あのふっくらまあるい、
太陽のようにも満月のようにもみえる色や形も、
山口さんが見つめる美しい自然のなかから生まれてきたのだろう。
「できる人が怠けるより、できない人が精一杯している姿がどれだけ美しいか。努力する人には、勝てないと思います」人づくりへの考えも、どこか温かい。山口さんの撮られた写真には、自然や季節の美しさが映し出されている。
「失敗」という利益
商の心得も味わいのある表現で語る。
「たとえばね〝出入り口〟というでしょ。
〝入り出口〟とはいわない。
お客さんに喜んでもらえることをとことん先に出す。
そうすれば入ってくるんです。
でも、みんな自分に〝入る〟のを先に考えたがるんだ」。
そして、失敗を恐れてばかりいる姿勢をいましめる。
「失敗したら損した損したっていうけれど、
失敗も自分の利益だと考えたらいい。
私なんか大失敗をたくさんしてきた。
でも、ぜーんぶ自分の利益だよ。
そのおかげで、いまがあるんだから」。
なんだか、心が開いてくるなあ。
人生では苦労なしには、豊かさはない、とも。
「かすたどんも苦労して苦労して育てた子どもです。
だから、かわいいですし、人からもかわいがられると思うんですよ」。
なるほど山口さんの親心も、
かすたどんにはみっちりと詰まっているのだ。
楽しいことたくさんよっといで。
40年前、お店を出すとき書いた言葉。
「書は好きですが、この言葉は書いて欲しいとリクエストが多いですね」。ほんとうに眺めるだけで和んでくる。
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