かすたどんの謎 Vol.3

水も空気もいい。人もいい。
なるほど、美味しいものができるはずだ。


清らかな田舎の空気と混じり合うように、

甘いお菓子の香りがふわりと漂ってきた。

ここは薩摩蒸氣屋の小山田工場。

のどかな、心がゆるんでくる感じから、

一転、気を引き締めて工場に入れてもらう。

迎えてくださったのは川畑工場長。

朗らかで、柔らかい印象の方だ。

視界の先には、ふわっと湯気が立ち込めているが、

当然ながら昔ながらのせいろで蒸したりはしていない。

長さ30メートルはありそうな機械が稼働していた。

その銀色に輝く躯体と巨大さに、思わず、うはぁ、と息を飲む。



菓子職人がつくる工場

クリーム状の生地が、

ふっくらしたかすたどんになっていく様子は、

誰でも感嘆の声が出るだろう。マ

シンは、ゆっくり、たんたんと作業をすすめていく。

そのさまはまるで大名行列だ。

一つ一つが「どん(殿様)」だと思うと、神々しくて頭がくらくらする。

「難しいのは、スピードの調整です。

ちょっとのタイミングのズレで

あの均整の取れたまあるい姿にはならないんです」と工場長。

驚くのは、この巨大な機械は、

かすたどんをつくるためだけにつくられたものだそう。

「30年選手だった先代の機械に変わって最近、

最新鋭のものを導入しました。

うちの山口社長は機械にも強くて、アイディアを相当だされますし、

夢にまで見るんだそうです」と笑顔をこぼす。

この工場にある機械はほとんどすべて特注品だという。

職人の技が注ぎ込まれた工場だ。




食べる人が喜ぶように。
なにも困ることがないように。
そんな気遣いのかたまりだった。


「ふかトロ」の秘密

「常温でも冷やしても生地はふかふか、

クリームもトロッとしているのが、

かすたどんの売りです」と工場長。

生地やクリームに使われる材料の微妙な配合が、

その「ふかトロ」の秘密らしい。

「さすがに、その配合は教えられませんね」。

かすたどんの生地の材料は

小麦、卵、砂糖というシンプルなもの。

「地産地消を目指していますから、

鹿児島産の卵にこだわります。

かすたどんのきれいな黄色は、

エサまで養鶏場と配合を取り決めているからなんです」と工場長は、

表情をいっそう穏やかにしてこう続ける

「ここは空気もいいし、きれいな地下水を使っています。

だからおいしいものができるんじゃないでしょうかね」。



おおらかさと厳しさと

かすたどんの「30年間100円」の

秘密もこんなふうに教えてくれる。

「こちらの都合ではない適正価格、

万人が満足する大きさと値段を守るためなんです。

少しでも値段を上げたら楽になるのにと思うこともありましたけれどね」

新鮮なうちにお菓子を食べてもらうために

冷蔵庫は極力使わないという。

「社長は、作りだめをするな、

楽をしようとするなと、そこは厳しい。

いろいろ頑固でたいへんです」。

その言葉も、どことなく温かく、おおらかだ。



にこやかな工場長が一転、

目が鋭くなるのが検品ラインを見つめるとき。

なにか察すると、その現場に駆け寄りスタッフたちと話し合う。

集中している工場長には、声をかけてはいけない気持ちになるほどだ。

工場の甘い匂いを忘れるほど真剣さを感じる光景だった。

ミナミノクニ/地元人が見つけた面白い鹿児島

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